倉庫や保管庫として、古くから建てられてきた「土蔵」は、防火性能を高めるために、厚い土壁の上に漆喰やモルタルを塗った造りのものが多く、独特の存在感を有します。伝統的なデザインを生かし、文化施設や商業施設として転用・再生されるものも多く、全国各地に蔵のある町並みが保存されています。
土蔵は、外部の温度変化の影響を最小限に抑えるほか、優れた調湿機能を誇るなど、蒸し暑い夏も土蔵の内部ではひんやりと快適な環境を体感することができます。土蔵で保管されたものは、古くても保存状態が良いものが多く、優れた住環境を体現する建築物として、土蔵の持つ機能が見直されています。
都市近郊や農村では、古い土蔵が残されているところも多く、土蔵の優れた機能を生かしながら、住宅として再生される事例も増えています。また、立派な構造材を他の敷地で再利用する「移築再生」の事例も数多くあります。土蔵はその用途上、窓が少ないため、住宅として利用する際は採光計画をしっかりと行う必要があります。
土蔵の建築には熟練した左官技術が必要となるため、技術の伝承が課題となっています。現代建築では、厳しいコスト管理・スピードが求められ、通風・換気・温熱環境などの機能についても、後付けの設備機械に頼る傾向があります。そんな時代だからこそ、土蔵にならい、建築物そのものが持つべき機能について、見直したいものです。